本日と明日で香港時計オークションⅩⅨも開催されるため、まだ香港は熱気に包まれている状況だ。

投稿者: | 2025年8月9日

ロット105:クロノトウキョウ グランド“虹” 落札価格 22万8600香港ドル(約454万5000円)

 全体で115のロットが用意されたTOKI-刻-オークションだが、今回一つの目玉とも言える日本のインディペンデントウォッチメーカーによる11本の時計たちには、ロット105~115の番号が与えられた。口火を切ったのはこのクロノトウキョウのグランド“虹”だ。独特なニュアンスを持った漆文字盤と同ブランド初の金無垢ケースを備えたユニークピースは、みるみる間に入札合戦が繰り広げられた。

ロット106:タカノ シャトーヌーベル・クロノメーター“TOKI” 落札価格 21万5900香港ドル(約429万2500円)

Image courtesy:Phillips

 続いて登場したのは、今年復活を遂げたタカノ。本作も前出のクロノトウキョウ同様、浅岡 肇氏が率いる東京時計精密による作品で、同社によるこのオークションでの収益は全額が能登半島地震で被害を受けられた輪島塗の救済のために寄付される。この1本のためのサーモンダイヤルは日本の伝統色である朱鷺色で、タカノ自体になじみはなくともその珍しい文字盤に引かれたのか、中東などからのビッドも目立った。最終的にはカタールの幸運な落札者の手にわたることに。

 なお、出品前の東京時計精密・浅岡 肇氏への取材記事はこちらへ。

ロット107:大塚ローテック 6号 東雲 “SHINONOME” 落札価格 55万3400香港ドル(約1100万2600円)

 ジャパニーズ・インディペンデントへの期待感がさらに顕在化したのが、このロット107からだった。前ふたつのロットもハイエスティメートを2倍近く上回る結果だったわけだが、ここからグッとギアが引き上がる。それもそのはず、大塚ローテックは現在日本在住者しか抽選に応募することができないうえ、直前のGPHG・チャレンジ部門で受賞を果たすなど海外勢から見ても話題が豊富だったのだ。結果、ハイエスティメートの10倍近い42万香港ドルでハンマーが鳴る。会場も合わせて熾烈な競り合い合戦となった。

 なお、本作はブラックIPコーティングが施された、片山次朗氏によるユニークピースだが、コレクターから出品された6号、7.5号も同様に高い評価を受けて落札された。特に6号は本作に迫る勢いの37万香港ドルをつけたのだから、日本人のコレクターのあいだで大きな話題になるだろうと予感させられた。

 出品前の大塚ローテックへの取材記事はこちらへ。

 ここからさらにオークションのボルテージが最高潮に達するのだが、それ以前、前半戦でも大躍進を果たした日本の時計ブランドによる輝いたロットも紹介したい。

ロット45:クレドール ノード 叡智 落札価格 177万8000香港ドル(約3535万円)

 年々評価を高めるクレドールの叡智。2008年に発売された、この初代・叡智は世界初のトルクリターンシステムを備え、年間で5本程度しか生産されなかった高い希少性を持つ時計だ。叡智 Ⅱにも引き継がれた磁器製のダイヤル、磨き込まれたスプリングドライブムーブメントなど、独自の魅力が凝縮された本作はこれまで出品された叡智 Ⅱの記録を大幅に更新(2024年5月の香港オークションで33万200香港ドル<約656万5000円>、2023年5月の香港オークションで40万6400香港ドル<約808万円>、)することになった。

 僕は本作が落札された瞬間、香港のペダーアーケードのなかでマーク・チョー氏と一緒にいたのだが、彼もこの結果には驚きを隠せないようだった。長らくグランドセイコーやクレドールを愛好するマーク氏からすれば、ようやく世界もこの時計の魅力を大きく評価しはじめた、というところだろうか。ヴィンテージでもなく、スイス時計のようなヒストリーを持たない日本の時計が世界から注目を集めるというのは、間違いなくウォッチコレクティングの潮目が変わってきたことを意味する。

ロット49:カシオ G-SHOCK G-D5000-9JR 落札価格 114万3000香港ドル(約2272万5000円)

 ノード叡智に続き会場(とペダーアーケード)を沸かせたのがこのG-SHOCKだ。本作は2015年にバーゼルワールドで特別展示された「DREAM PROJECT DW-5000 IBE SPECIAL」に端を発した、G-SHOCKのゴールドモデルを実現したもの。2019年に35本限定で販売された本作は、ケースやブレスレット、ビスのすべてに18金を用いて製作された。G-SHOCK35周年を集大成したモデルだったが、あれから約5年を経てさらにその評価を確固たるものとする1本となった。

 本作の落札は、同様にフィリップスが手掛けた2023年のG-D001の成功も影響しているだろう。アメリカの時計好きの手にわたることになったゴールドG-SHOCKは、ラグジュアリーウォッチにおけるクォーツ時計の可能性をも示唆してくれるかもしれない。

 さて、日本勢の評価の高まりに胸を躍らせたところで、オークションの実施時間が5時間を経過してなお、熱が高まり続けた最終ロットまでを振り返りたい。