一面濃い緑の霧のなか、水面も底も見えない。僕の右手は、その濃いグリーンの奥深く、約60フィート(約18m)下の沈没船と僕をつなぐガイドラインに沿ってゆっくりと滑っていく。ラインは僕が握った先で水中に消えていき、続いて少し先で僕の唯一の拠り所となるバディがフィンを蹴る音が聞こえる。レギュレーターの泡の音だけを聞きながら、僕たちはアンカーラインに移り、潜降を開始した。
ゆっくりとラインを垂らすと、相棒のジェイソン・ヒートン(Jason Heaton)がカメラのライトを明るくしたのが見えた。霞んだ海から沈没船の端がゆっくりと姿を現すにつれ、視界がよくなっていることに気づいて安心した。
沈没船の周囲をうねるように泳ぐ魚の群れに少し驚きながら、深度を確認するべくコンピュータにチラッと目を配る。そしてもう片方の手首に目をやると、新しいブラックダイヤルを持つチューダー ペラゴス FXDの目盛りのついたベゼルが、潜水艇の後部から降りて上空の世界を離れてから、約3分が経過したのを示していた。
魚がたくさんいたことは伝えただろうか。
僕たちはフロリダ州パナマ・シティ・ビーチ沖の暖かい湾岸にある、ほとんど圧迫感のない緑色の海域で、ホバークラフトのJeff-A号をダイビングしている。ここは米海軍のダイビングの歴史と長年つながりのある地域で、海軍実験潜水部隊、アメリカ海軍潜水、サルベージ訓練センター、海軍水上戦センターのパナマ・シティ支部など、海軍支援活動パナマ・シティ(Naval Support Activity Panama City、NSA PC)の本拠地として機能している。
チューダーもまた、アメリカ軍のさまざまな要素との多大な歴史とともに、その遺産の一翼を担っている。Long Returnセクション(それとその2)や、元SEAL チーム1の隊員だったモキ・マーティン氏と、彼のチューダーサブ 7928の驚くべきストーリーを綴ったTalking Watchesセクションまで、幸運にも僕が取材した過去の物語をいくつか思い浮かべて欲しい。前述した記事をまだ見ていない人は、これらのストーリーはあなたの心を温かくし、FXDのような現代のチューダーダイバーズの“価値”を確立するのに役立つだろう。
興味深いことに、チューダーは新しいFXDの発表会場に、ミュージアム オブ マン イン ザ シーを選んだ。このイベントには、60年代後半に5年間Navy SEALを務めただけでなく、NASAのアポロ回収チームの責任者でもあったウィリアム・ジェブ(William Jebb)大尉(退役している)がイベントの司会を務めた。さらに彼はモキ・マーティン氏のSEAL チーム1で相棒でもあった! 興味のある方はこの素晴らしいミュージアム オブ マン イン ザ シーを訪れてみてはいかがだろう。
Jeff-Aは、80年代半ばからアメリカ海軍が使用していた、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇のひとつである。その後1995年に沈められ、パナマ・シティ・ビーチの沖合近くの人工岩礁となった(30.07012, -85.811177。こちらが座標だ)。現在は水深約80フィート(約24m)の砂底に平らに横たわっており、ゴライアスグルーパー、メジロザメ、エイなど、エサとなる魚や、その地域の野生生物が大量に生息している。
ホバークラフトの右舷デッキの上でホバリングすると、ジェイソンのあいだで渦巻く魚の群れに目がくらみそうになる。ジェイソンの懐中電灯に照らされた僕の視界は20フィート(約6m)ほどだが、次の瞬間には、迫りくるサワラの猛威に対抗して、銀色のイワシとアジの大群が通り過ぎていくのが見えた。
沈没船はほとんどがアルミニウム製で、ほぼ無傷のまま良好な状態で保たれていて、ダイバーや野生動物のためにも十分なスペースが確保されていた。ジェイソンは、旅行に来ていたほかのダイバーたちへ撮影する場所を譲る。僕は流れに身を任せ、自分の写真、特に手首の写真を何枚か撮るつもりでiPhoneのカメラハウジング(水滴やホコリなどから本体を保護するための箱)をいじり始めた。
左手首には、チューダーがアメリカ海軍からインスパイアを得た、新型のFXD 25717Nを巻いている。これは2021年11月に発表されたオリジナルのFXDと大きく似ているが、新作はブルー基調をブラックへと変更し、フランス海軍との関係やコマンドー・ユベルの仕様を廃して逆回転防止機構を採用した、伝統的な潜水用経過時間ベゼルを備えている。
そのほかはフランス海軍のFXDと機械的によく似ている。チタン製のケースは直径42mm、厚さ12.75mm、ラグからラグまで52mm、そしてオリジナル FXDの固定されたラグバーを備えている。この仕様のブラック FXDには、ファブリックのフック・アンド・ループ式ストラップのほか、一体型ラバーストラップも付属。日付表示もHeV(ヘリウムエスケープバルブ)も、裏蓋は閉じたままで目立つ刻印もなく、防水性は200mを確保している(ダイバーズスペックをメートル法からインペリアル法に変換すると、660フィートだ)。いずれにしても、この沈没船を回遊するには必要以上のものだ。
ブラック文字盤の上に、赤い“PELAGOS”の名札が刻まれたこの新しいFXDは、オリジナルのブルーのFXDと同様に、ペラゴス 39の延長線上にあるように感じられる。チューダーのラインナップによく合っていると思うのだ。僕はP(ペラゴス)39のファンであるにもかかわらず、1分単位の目盛りがついたベゼルが気に入った。内部には、チューダーのマニュファクチュールCal.MT5602を搭載する。COSC認定の自動巻きムーブメントで、2万8800振動/時で時を刻み、約70時間のパワーリザーブを備えている。
手首に装着してみると、この時計は水中でその真価を発揮した。ブルーモデル同様決して小さな時計ではないが、チタンでできているため比較的薄く、装着しやすく、とても快適だった。
ベゼルと文字盤のマークは完全に夜光が盛られており、このモデルには特定の軍事組織による具体的かつ公的な意見はないが、チューダーがミルサブの理想をモダンな形で表現したものであり、P39よりもさらに目的意識が強く感じられる。というのも以前、僕は9401のスノーフレークを、現代風にアレンジしたものであると説明したのだ。ただこれは、それ以上のものだと感じる。
チューダーがアメリカ海軍のさまざまな部隊へ頑丈なダイバーズウォッチを支給していた過去への証に、新しいFXDは直接供給されたものではないが、FXDがダイビングのための現代的なツールウォッチであることを保証しながら、ブランドの歴史に沿う形で結合組織を所有している。